ブログで以前にも書きましたが、今はAIブームということで、ちょっとした業務システムを構築するような感覚で特化型AI(以降AI化とする)の採用を考える経営層が多いようです。これは伝聞ではなく、現実に弊社(小規模企業にも関わらず)に様々な分野の企業から自社向けにコア業務をAI化できないかという打診があります。その中にはご希望が弊社の技術分野と一致しお手伝いさせていただくところまで行く案件もありますが、一致せず最初の段階でお断りさせていただく案件もあります。そういった交渉をしていく過程で気になった点があります。それは、AI化を日本独特の”SIer文化”の延長上で考え、外部に丸投げしようと考えている企業が意外と多いということです。
一般的に言われていますが、この”SIer”という言葉も業態も日本独特のことで、欧米にはないということです。欧米にあるのはソリューションベンダーで、自社が必要とするシステムを構想、設計し、ソリューションを選定し、プログラムを製造するのはほとんど自社で採用したPMもしくはSEになります。つまり日本風にいうとすべて内製することになります。
そのため、様々な現場等とのコミュニケーションをとりながらの全体を見て柔軟性がある開発が可能になると言われています。
エンジニアにとっては職業の流動性もあるので、ある会社のシステム開発のために採用されても、その開発が完了されれば、次にシステム開発を計画している会社に転職するということもあります。その際に良い実績があれば高額の報酬で採用されるということで、日本のエンジニアに比較し欧米のエンジニアの年収が高い一因とも言われています。
ところが日本ではシステム開発となると、”SIer”と呼ばれるシステム開発会社に企画、要件定義以外の業務を丸投げすることが従来より行われています。一般的に初期の企画、要件定義についても満足な形式ではなく、その曖昧さからしばしば問題が発生するため、その工程もコンサルタント会社に任せるという場合さえあります。つまり、会社のコアになるシステム開発を他人任せにするということで現在までやってきています。
それでもなんとかなっているのは、日本人の勤勉さと、馴れ合いで、「契約範疇外だけどなんとかしてよ」、「追加オーダーだけどなんとかしてよ」、「なんとか動かしてよ」、「まあしょうがないなあ・・」ということがまかり通って来たからに他なりません。
上記を今更やめましょうと言う気はさらさらありませんが、AI化でも同じ感覚はさすがにまずいでしょう、というのが懸念点です。
業務のシステム化とコア業務のAI化の大きく異なる点としては
1)AI化は出力に相関性が高い入力がないと精度が確保できない。
通常のシステム開発は、業務データ加工や業務データ連携の自動化が目的なので、主に従業員間のコミュニケーションといった陽にでている情報のデータ化、データ処理が中心になるのに対し、AI化は人間の思考過程を取り扱うものであり”陰”の動きをAI内部で実現するということになります。したがって、その入力に必要とされ、相関が高い情報は必ずしも明確でなく、できるだけ大量で場合によっては広範囲のデータが必要になります。その量や種別によって、設計や前処理作業時間も変化しますが、どれぐらいが必要か、というのは初期では判断がつかないので、外注先での作業工数の見積もりは困難と思います。
2)AI化では何をもって検収条件とするのか
システム開発では、システム要件が発注者から提示され、その要件を満足するか否かを確認する試験を実施し、それらの試験で正常に動作すれば納入、検収となります。
しかし、AIでは100%の精度を保証するのは容易ではありません。一定までの精度を確保するような学習データ量と学習期間がどれぐらい必要かといった予測すら困難です。また、交差検定という考えもありますが、それでいえることは学習データと異なるデータ群での検定ではこうなった、ということです。”かならずその精度がでる”ということは言えないです。それを発注者が理解した上で検収する必要があります。瑕疵という定義も当てはまるのか微妙ですね。
3)エキスパートなどの人間の知識、判断等の置き換えが狙いだが、当の依頼者が判断基準を説明できていないものをAI化しようとしている場合がある
コア事業をエキスパートの判断に依存していて、それをAI化したいという話がたまにありますが、そのノウハウを持っているが競争力なのに、その明示的な蓄積もなく、それをAIという更なるブラックボックスにしてしまって(しかもその作業過程を外注して)大丈夫ですか?という心配があります。精度向上や学習によるノウハウのアップデートとかをどうやってするのかとか考えないのでしょうか?
ということをつらつらと考えてみました。
弊社のようなAI化を推進しようとする会社がこんなことをいうのは自己矛盾と思われるかもしれませんが、”SI”のような考え方では継続的にAIを活用するのは難しいと考えざるをえず、各会社は自社内でAI化を推進するデータサイエンティストを採用または育成することで継続的かつ効果的に業務にAI が活用できるのではないかと考えます。
その実現に向け、”丸投げ”ではなく弊社の様なサービスをうまく組みわせてAI化を推進できるようなデータサイエンティストをそれぞれの会社が採用、育成することを期待します。