D-Wave Systemsが$29Mを調達

量子コンピューティングのD-Wave Systemsが今日、昨年末に2900万カナダドルの資金を調達していたことを発表した。

その前には同社は、昨年夏に2840万ドルを調達し、その後11月には約220万ドルを調達している。

新たな資金によりD-Waveはそのハードウェアとソフトウェアの開発努力をさらに強化できる。プロセッサとしては同社は現在、次世代タイプの1000キュービットのシステムを開発中。

実際にプロセッサを売っていくためには、GoogleやNASAなどのクライアントがquantum annealingを利用するソフトウェアを作る必要がある。それは多くのソフトウェアエンジニアにとって未踏の領域だから、D-Waveは顧客と協力しながら、量子計算機を買うことのメリットを訴えていかなければならない。

量子コンピューター第三の方式?

「量子ゲート」とも「量子アニーリング」とも異なる、新たな方式に基づく量子コンピュータの開発プロジェクトをマイクロソフトが支援する、というニュースが報じられた。

●”Microsoft Makes Bet Quantum Computing Is Next Breakthrough“ The New York Times, JUNE 23, 2014

「トポロジカル量子コンピューティング」と命名された、この新たな方式では、量子力学の統計的な性質に基づく「フェルミ粒子(Fermion)」と「ボーズ粒子(Boson)」の中間的な存在である、「エニオン(Anyon)」と呼ばれる分数統計粒子によって量子並列性を実現するとしている。ただしエニオンはいまだ仮説の域を出ず、こうした言わばリスキーなプロジェクトをマイクロソフトが支援する理由は不明だ。

量子コンピューターとは?

量子コンピュータとは「原子核」や「電子」、「クォーク」のようなミクロ世界の現象を記述する量子力学の原理を、計算の原理に応用した画期的なコンピュータだ。19世紀終盤から20世紀初頭にかけて、欧州を中心に確立された量子力学は、現代物理学のバックボーンとして、その後の固体物理学や半導体工学を生み出す礎となった。

1982年、世界的に有名な物理学者である米国のリチャード・ファインマン氏(故人)が、この量子力学の基本法則を計算の原理に応用することを提案し、ここから量子コンピュータの実現可能性が検討され始めたとされる。その後、英国のデイビッド・ドイッチュ氏ら先駆的な物理学者が、量子コンピュータを開発するための具体的な方式を幾つか提案した。いずれも「量子並列性」と呼ばれるミクロ世界の不可思議な現象を、計算の原理へと転化したものだ。

私たちの生きる日常世界では、白はあくまで白であり、決して黒ではない。しかし量子力学によって説明されるミクロな世界では、「白は白であると同時に、黒でもある」という奇妙な状況が成立する。要するに、一つのモノが同時に幾つもの異なる状態を取り得る。これが「量子並列性」と呼ばれる現象だ。

量子コンピュータでは、この量子並列性を利用して、一台のコンピュータの内部に自らの分身を無数に作り出す。これら無数の分身が個々に一つの仕事をこなすので、その結果として超高速の計算が実現されるのだ。

この量子並列性を実現する具体的は手法は、現在までに幾つか提案されている。そのうち主流となっているのは「量子ゲート」と呼ばれる方式で、米IBMなど大手メーカーや主要な研究機関などが取り組んでいる量子コンピュータはいずれも、この量子ゲート方式に従っている。

ところが量子ゲートは非常に不安定で、折角作ったと思ったら、すぐに壊れてしまうという問題を抱えている。

そうした中、世界的には無名のベンチャー企業、D-Waveが「量子アニーリング」と呼ばれる全く別の方式に従う量子コンピュータを製品化することに成功した、と2011年に発表。量子アニーリングをコンピュータの計算原理に応用することには、日本の研究者が大きく貢献していることから、日本では特に強い関心を集めている。

Google/NASAが購入した量子コンピュータ「D-Wave」

D-Waveは、カナダの西海岸のバンクーバーの周辺に本拠を持つ会社で、従業員は100人程度であるが、その中で博士号をもつ人が27名というハイテク集団である。そして、D-Wave社は、世界で唯一、量子コンピュータを製造している会社である。

2011年5月には防衛産業のロッキードマーチンと南カリフォルニア大のチームがD-Wave Oneを購入し、2013年5月にはNASAとGoogleのチームがD-Wave Twoを購入している。

量子コンピュータの実現の仕方は色々と提案されているが、論文などを見ると、95%は量子ゲートを作り、それを組み合わせて量子コンピュータを作るという方法である。それに対してD-Waveの量子コンピュータはAdiabatic(断熱的)量子コンピューティング(AQC)という方式を使っている。

デジタルのビットは0か1のどちらかの値を記憶するが、量子コンピュータの単位情報を記憶するQubit(キュービット)は、 0と1がある比率で重なり合った状態を記憶する。また、量子コンピューティングを行うには、1つのQubitの状態が他のQubitの状態に影響を与えるもつれ合った(entangled)状態を維持する必要がある。しかし、Qubitの数が多くなると、もつれ合った状態を維持することが難しい。Qubitの作り方としては、トラップされたイオンで実現する方法や超電導素子で記憶する方法、あるいは光学的に実現する方法などが発表されているが、計算に必要な時間の間、もつれを維持できるものは、最大でも10Qubit規模のものしか実現されていない。これに対して、D-Wave Twoでは、超電導素子を使って512-Qubitの素子を実現している。