量子コンピュータとは「原子核」や「電子」、「クォーク」のようなミクロ世界の現象を記述する量子力学の原理を、計算の原理に応用した画期的なコンピュータだ。19世紀終盤から20世紀初頭にかけて、欧州を中心に確立された量子力学は、現代物理学のバックボーンとして、その後の固体物理学や半導体工学を生み出す礎となった。
1982年、世界的に有名な物理学者である米国のリチャード・ファインマン氏(故人)が、この量子力学の基本法則を計算の原理に応用することを提案し、ここから量子コンピュータの実現可能性が検討され始めたとされる。その後、英国のデイビッド・ドイッチュ氏ら先駆的な物理学者が、量子コンピュータを開発するための具体的な方式を幾つか提案した。いずれも「量子並列性」と呼ばれるミクロ世界の不可思議な現象を、計算の原理へと転化したものだ。
私たちの生きる日常世界では、白はあくまで白であり、決して黒ではない。しかし量子力学によって説明されるミクロな世界では、「白は白であると同時に、黒でもある」という奇妙な状況が成立する。要するに、一つのモノが同時に幾つもの異なる状態を取り得る。これが「量子並列性」と呼ばれる現象だ。
量子コンピュータでは、この量子並列性を利用して、一台のコンピュータの内部に自らの分身を無数に作り出す。これら無数の分身が個々に一つの仕事をこなすので、その結果として超高速の計算が実現されるのだ。
この量子並列性を実現する具体的は手法は、現在までに幾つか提案されている。そのうち主流となっているのは「量子ゲート」と呼ばれる方式で、米IBMなど大手メーカーや主要な研究機関などが取り組んでいる量子コンピュータはいずれも、この量子ゲート方式に従っている。
ところが量子ゲートは非常に不安定で、折角作ったと思ったら、すぐに壊れてしまうという問題を抱えている。
そうした中、世界的には無名のベンチャー企業、D-Waveが「量子アニーリング」と呼ばれる全く別の方式に従う量子コンピュータを製品化することに成功した、と2011年に発表。量子アニーリングをコンピュータの計算原理に応用することには、日本の研究者が大きく貢献していることから、日本では特に強い関心を集めている。