量子コンピューター第三の方式?

「量子ゲート」とも「量子アニーリング」とも異なる、新たな方式に基づく量子コンピュータの開発プロジェクトをマイクロソフトが支援する、というニュースが報じられた。

●”Microsoft Makes Bet Quantum Computing Is Next Breakthrough“ The New York Times, JUNE 23, 2014

「トポロジカル量子コンピューティング」と命名された、この新たな方式では、量子力学の統計的な性質に基づく「フェルミ粒子(Fermion)」と「ボーズ粒子(Boson)」の中間的な存在である、「エニオン(Anyon)」と呼ばれる分数統計粒子によって量子並列性を実現するとしている。ただしエニオンはいまだ仮説の域を出ず、こうした言わばリスキーなプロジェクトをマイクロソフトが支援する理由は不明だ。

量子コンピューターとは?

量子コンピュータとは「原子核」や「電子」、「クォーク」のようなミクロ世界の現象を記述する量子力学の原理を、計算の原理に応用した画期的なコンピュータだ。19世紀終盤から20世紀初頭にかけて、欧州を中心に確立された量子力学は、現代物理学のバックボーンとして、その後の固体物理学や半導体工学を生み出す礎となった。

1982年、世界的に有名な物理学者である米国のリチャード・ファインマン氏(故人)が、この量子力学の基本法則を計算の原理に応用することを提案し、ここから量子コンピュータの実現可能性が検討され始めたとされる。その後、英国のデイビッド・ドイッチュ氏ら先駆的な物理学者が、量子コンピュータを開発するための具体的な方式を幾つか提案した。いずれも「量子並列性」と呼ばれるミクロ世界の不可思議な現象を、計算の原理へと転化したものだ。

私たちの生きる日常世界では、白はあくまで白であり、決して黒ではない。しかし量子力学によって説明されるミクロな世界では、「白は白であると同時に、黒でもある」という奇妙な状況が成立する。要するに、一つのモノが同時に幾つもの異なる状態を取り得る。これが「量子並列性」と呼ばれる現象だ。

量子コンピュータでは、この量子並列性を利用して、一台のコンピュータの内部に自らの分身を無数に作り出す。これら無数の分身が個々に一つの仕事をこなすので、その結果として超高速の計算が実現されるのだ。

この量子並列性を実現する具体的は手法は、現在までに幾つか提案されている。そのうち主流となっているのは「量子ゲート」と呼ばれる方式で、米IBMなど大手メーカーや主要な研究機関などが取り組んでいる量子コンピュータはいずれも、この量子ゲート方式に従っている。

ところが量子ゲートは非常に不安定で、折角作ったと思ったら、すぐに壊れてしまうという問題を抱えている。

そうした中、世界的には無名のベンチャー企業、D-Waveが「量子アニーリング」と呼ばれる全く別の方式に従う量子コンピュータを製品化することに成功した、と2011年に発表。量子アニーリングをコンピュータの計算原理に応用することには、日本の研究者が大きく貢献していることから、日本では特に強い関心を集めている。

Google/NASAが購入した量子コンピュータ「D-Wave」

D-Waveは、カナダの西海岸のバンクーバーの周辺に本拠を持つ会社で、従業員は100人程度であるが、その中で博士号をもつ人が27名というハイテク集団である。そして、D-Wave社は、世界で唯一、量子コンピュータを製造している会社である。

2011年5月には防衛産業のロッキードマーチンと南カリフォルニア大のチームがD-Wave Oneを購入し、2013年5月にはNASAとGoogleのチームがD-Wave Twoを購入している。

量子コンピュータの実現の仕方は色々と提案されているが、論文などを見ると、95%は量子ゲートを作り、それを組み合わせて量子コンピュータを作るという方法である。それに対してD-Waveの量子コンピュータはAdiabatic(断熱的)量子コンピューティング(AQC)という方式を使っている。

デジタルのビットは0か1のどちらかの値を記憶するが、量子コンピュータの単位情報を記憶するQubit(キュービット)は、 0と1がある比率で重なり合った状態を記憶する。また、量子コンピューティングを行うには、1つのQubitの状態が他のQubitの状態に影響を与えるもつれ合った(entangled)状態を維持する必要がある。しかし、Qubitの数が多くなると、もつれ合った状態を維持することが難しい。Qubitの作り方としては、トラップされたイオンで実現する方法や超電導素子で記憶する方法、あるいは光学的に実現する方法などが発表されているが、計算に必要な時間の間、もつれを維持できるものは、最大でも10Qubit規模のものしか実現されていない。これに対して、D-Wave Twoでは、超電導素子を使って512-Qubitの素子を実現している。

三井住友銀が顧客電話応対にWatson導入

三井住友銀行は2014年11月5日、高度な自然言語処理や音声認識の機能を備えた米IBM社製の人工知能システム「ワトソン」を利用し、2015年に国内での顧客電話応対業務に順次導入すると発表した。ワトソンは医療やロボット産業、通信、小売りなど幅広い分野でグローバルな応用が見込まれており、今後、日本の金融界でも普及が進みそうだ。
三井住友銀が都内と神戸、福岡両市で運営している計3カ所のコールセンターで9月に着手した実証実験を年内に終了。検証を踏まえて年明け以降、計数百人の応対要員を対象に、自動音声対応による本人確認補助のほか、取引状況などの解析を踏まえて、要員が最適な商品・サービスを迅速に紹介できるよう支援する。
ワトソンは、人間の考え方に似た方法で情報処理を行うことが可能な次世代コンピューターとして知られる。肉声での質問を理解し、前後の文脈や曖昧な情報についても膨大な関連電子情報「ビッグデータ」を解析して短時間に推論、学習を繰り返す仕組み。自動音声も発しながら最適な回答を導き出す。

IBMがソフトバンクとワトソン日本語版開発

米IBMは2014年10月8日、人工知能型コンピューター「ワトソン」の日本語対応版をソフトバンクと共同で開発し、2015年にも事業展開する方針を明らかにした。ロボット分野でも関係を深める。次世代IT(情報技術)である人工知能コンピューターの活用に弾みがつきそうだ。

IBMは8日、米ニューヨークでIBMワトソングループ・グローバル本部の開所式を開いた。ワトソン事業を担当するマイク・ローディン氏は講演で「ワトソンの多言語化を進めており、日本語対応の基盤をソフトバンクと共同開発している」と語った。

ワトソンは情報が爆発的に増えるビッグデータ時代に、膨大な情報を分析し経営判断の前提となる選択肢の絞り込みなどに機能を発揮するとされる。人間の脳のように経験から学ぶこともできる。現在、ワトソンの対応言語は英語のみ。今後は日本語、スペイン語、ポルトガル語の対応を優先的に進める。IBMは日本語版の開発で、ソフトバンクと組んで翻訳やデータ出入力といった日本語にかかわるシステム基盤を構築する。

ローディン氏はソフトバンクとロボット分野で協業するとも語った。ソフトバンクが手掛けるパーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」への人工知能コンピューター技術の活用範囲などを拡大するとみられる。

Chef Watson

WatsonはChefになるべく、『Bon Appetit』誌に掲載された9,000件のレシピをクロールして、食材の組み合わせ方、料理スタイル、料理の盛りつけ方等に関するデータをパターン学習した。

アプリには、使いたい食材と避けたい食材を入力する。そして、つくりたい料理の種類(ブリートやパスタなど)と、『Bon Appetit』誌のタグ(イタリアン、アジアン、簡単など)に基づいたスタイルを決める。

するとシェフ・ワトソンは、ものすごい数の可能な組み合わせを見つけ出し、一般的なものから実験的なものまで、10グループの上位100件を表示してくれる。

「コンピューターは、人間が想像・創造し、発明することを助けられるだろうか」と、『Bon Appetit』誌のアダム・ラポポート編集長は問いかける。「味の組み合わせは無限にある。人間はただ、いままでは思いつかなかったという理由で探究していないだけなのだ」

シェフ・ワトソンは、データベースから集めた情報をそのまま吐き出すわけではない。集めたデータについて、文脈に沿って学習し、知識を深めることができる。IBMのワトソングループの責任者であるスティーヴ・アブラハムは、「われわれが目指しているのは、認知システムはいま何ができて、新しいものの発見にどれくらい役に立つのかを示すことだ」と語る。「料理はそのひとつの例なのだ」

IBM Watsonとは?

ワトソンは、IBMが開発した質問応答システムで、2009年4月に米国の人気クイズ番組「ジェパディ!」(Jeopardy!)にチャレンジするコンピューターとして発表された。

これは1997年に、当時のチェス世界チャンピオンのガルリ・カスパロフに勝利したIBMのコンピュータ・システムであるディープ・ブルーに次ぐプロジェクトである。しかし、クイズ番組では自然言語で問われた質問を理解して、文脈を含めて質問の趣旨を理解し、人工知能として大量の情報の中から適切な回答を選択し、回答する必要がある。IBMはこの技術を、将来的には医療、オンラインのヘルプデスク、コールセンターでの顧客サービスなどに活用できるとしている。

2011年1月13日にはトーマス・J・ワトソン研究所でワトソンの公開とアメリカ合衆国のクイズ番組「ジェパディ!」での人間と対戦デモが行われた。ワトソンは、10台のラックに搭載されたPower Systems 750で構成され、2880個のPOWER7プロセッサ・コアを搭載し、オペレーティングシステムはLinux、処理性能は80テラFLOPS(TFLOPS)で、インターネットには接続されておらず、本・台本・百科事典(Wikipediaを含む)などの2億ページ分のテキストデータ(70GB程度、約100万冊の書籍に相当)をスキャンして取り込んだ。

2011年2月14日からの本対戦では、15日と16日に試合が行われ、初日は引き分け、総合ではワトソンが勝利して賞金100万ドルを獲得した。賞金は全額が慈善事業に寄付される。

2013年11月14日には、一般のデベロッパーに提供することを発表した。

「Wikipedia」より

Deep LearningによるGoogleの猫認識

YouTubeにアップロードされている動画から、ランダムに取り出した200×200ピクセルサイズの画像を1000万枚用意し、これを用いてDeep Learning を行った(3%前後の画像に人間の顔が含まれていた。猫が含まれる画像もたくさんあった)。
Deep Learning とは、ここ最近になってその有効性が注目されている新しい機械学習の手法で、多段階のニューラルネットワークを構成する。ニューラルネットワークの最初の層の入力は各画素(200×200=40,000)のRGBの値で、9つの階層を構築した。1000台のコンピュータで3日間かけて学習を行った。その結果、人間の顔、猫の顔、人間の体の写真に反応するニューロンができた

ホーキング博士「人工知能の進化は人類の終焉を意味する」

BBCのインタビューに対して、ホーキング博士は次のように語った。「完全な人工知能を開発できたら、それは人類の終焉を意味するかもしれない」

ホーキング博士は「人工知能が自分の意志をもって自立し、そしてさらにこれまでにないような早さで能力を上げ自分自身を設計しなおすこともあり得る。ゆっくりとしか進化できない人間に勝ち目はない。いずれは人工知能に取って代わられるだろう」と語った。

人工知能の進化に人類が歩調を合わせることができる能力を、人工知能が上回ることになる、いわゆる「技術的特異点」についてホーキング博士は既に懸念を表明している。5月、イギリスの新聞「インディペンデント」に掲載された論説で博士は「人工知能の発明は人類史上最大の出来事だった。だが同時に、『最後』の出来事になってしまう可能性もある」と述べている。

 

人類はAIを恐れる必要はない:Googleエリック・シュミット語る

グーグルは最近、社内にロボット研究所を立ち上げたりもしている。しかし、エリック・シュミットは自動運転車の助手席に座るのが「完全にハッピー」ではない(つまり、恐ろしい)体験だと認める一方で、機械が仕事を奪ったり、世界を征服したりするといった心配は、すべて正当性を欠くものだとも考えているのだ。

「こうした不安は、よくあるものです」と、彼はニューヨークで開かれたイヴェント「Financial Times Innovate America」のステージ上で語った。「(ですが)このように考えるのは、ある意味見当違いでもあります」。

「織機の歴史を振り返ってみましょう。この(自動織機が世に出た)時代にも、混乱は見られました」と彼は述べる。「しかし、より機械化された衣料の製造技術を取り入れることで、人々は皆、より裕福になりました」。

さらに彼は、歴史上から見たとき、経済はこうした新しい技術を導入するほど、繁栄したのだと主張する。「コンピューターを導入すると、給料も上がるということを示す証拠もたくさんあります」と彼は言う。「コンピューターを使って仕事をしている人は、そうでない人よりも多く稼いでいることを示す証拠も多くあるのです」。

AIを恐れるよりも、いま本当に心配すべきこと

本当の脅威は、世界中の教育制度にある、と彼は考えている。つまり、ますます進化する「知的機械」と一緒に働くのに求められるスキルを、生徒たちに教えられていないというのだ。

シュミットはこう説明する。「本当に心配すべきことは、人々が来る新しい世界に対応できるようにすること。そして、収入を最大限増やせるようにするために、教育制度や奨励制度をグローバルに改善するのに何をすべきか、ということなのです」。

また、シュミットは、AIは人々が想像しているよりも、まだかなり原始的だということも認めた。その証拠として、彼は数年前にグーグルが行ったある実験について説明した。

グーグルの科学者たちは人工の神経回路網を開発し、「これが何を学ぶか」を確認しようと11,000時間にわたってYouTubeのヴィデオを見せたのだ。

「神経回路網は、『猫』の概念を発見しました」とシュミットは述べたのだが、その声のトーンには落胆が感じられた。「この結果について1つだけはっきり言えるのは、ここまでしかわれわれは到達していないということです」。